東京地方裁判所 昭和62年(特わ)2674号 判決 1988年3月15日
本籍
東京都世田谷区北烏山六丁目七番
住居
同都渋谷区代々木三丁目三一番四号
トップルーム代々木公園二〇三号
会社役員
酒井和夫
昭和二八年一〇月二四日生
本店所在地
東京都新宿区歌舞伎町一丁目一七番七号
有限会社ピーエスピーレジャー産業
(右代表者代表取締役 酒井和夫)
右酒井和夫に対する所得税法違反、法人税法違反、有限会社ピーエスピーレジャー産業に対する法人税法違反被告事件について、当裁判所は、検察官井上經敏、同門野坂修一出席のうえ審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人酒井和夫を懲役一年及び罰金二四〇〇万円に、被告人有限会社ピーエスピーレジャー産業を罰金四〇〇万円にそれぞれ処する。
被告人酒井和夫においてその罰金を完納することができないときは、金一〇万円を一日に換算した期間、同被告人を労役場に留置する。
被告人酒井和夫に対し、この裁判確定の日から三年間、その懲役刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人酒井和夫(以下「被告人」という。)は、個人で飲食店を営むかたわら、昭和五七年一一月一九日、東京都新宿区歌舞伎町一丁目一七番七号に本店を置き、飲食店の経営及び管理等を目的とする資本金三〇〇万円の被告人有限会社ピーエスピーレジャー産業(以下「被告会社」という。)を設立し、その代表取締役として同会社の業務全般を統括しているものであるが、
第一 自己の所得税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上
一 昭和五七年分の実際総所得金額が八一三三万三一二四円あった(別紙1の(1)修正損益計算書及び同1の(2)所得金額総括表参照)のにかかわらず、昭和五八年三月一二日、東京都新宿区北新宿一丁目一九番三号所在の所轄淀橋税務署において、同税務署長に対し、同五七年分の総所得金額が六四九万七三八五円でこれに対する所得税額が九五万四七〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(昭和六三年押第一三六号の1)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により同年分の正規の所得税額四五六三万九四〇〇円と右申告税額との差額四四六八万四七〇〇円(別紙3の(1)脱税額計算書参照)を免れ
二 昭和五八年分の実際総所得金額が八六六一万三九六五円あった(別紙2の(1)修正損益計算書及び同2の(2)所得金額総括表参照)のにかかわらず、昭和五九年三月一五日、東京都渋谷区宇田川町一番三号所在の所轄渋谷税務署において、同税務署長に対し、同五八年分の総所得金額が一四六一万三五七五円でこれに対する所得税額が四三五万七〇〇〇円である旨の虚偽の所得税確定申告書(同押号の2)を提出し、そのまま法定納期限を徒過させ、もって不正の行為により、同年分の正規の所得税額四八二五万六六〇〇円と右申告税額との差額四三八九万九六〇〇円(別紙3の(2)脱税額計算書参照)を免れ
第二 被告会社の業務に関し、法人税を免れようと企て、売上の一部を除外するなどの方法により所得を秘匿した上、昭和五七年一一月一九日から同五八年一〇月三一日までの事業年度における被告会社の実際所得金額が三六六四万九八三二円あった(別紙4修正損益計算書参照)のにかかわらず、法定納期限後である同五九年一月四日、所轄の前記淀橋税務署において、同税務署長に対し、その所得金額が一四万二九〇六円であり、これに対する法人税額が四万二六〇〇円である旨の虚偽の法人税確定申告書(同押号の5)を提出し、もって不正の行為により、同会社の右事業年度における正規の法人税額一四四三万二五〇〇円と右申告税額との差額一四三八万九九〇〇円(別紙5脱税額計算書参照)を免れ
たものである。
(証拠の標目)
甲、番号は、検察官請求証拠等関係カード記載のそれによる。
判示全部の事実について
一 被告人の当公判廷における供述
一 被告人の検察官に対する供述調書八通
一 登記官作成の商業登記簿謄本
一 小林健二及び福尾秀昭の検察官に対する各供述調書
判示第一全部の事実について
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 収入金額調査書
2 現場払経費調査書(甲2)
3 仕入金額調査書(甲3)
4 期首棚卸高調査書
5 期末棚卸高調査書(甲5)
6 租税公課調査書(甲6)
7 水道光熱費調査書(甲7)
8 通信費調査書(甲8)
9 広告宣伝費調査書(甲9)
10 修繕費調査書(甲10)
11 減価償却費調査書
12 福利厚生費調査書(甲12)
13 給料賃金調査書
14 利子割引料調査書
15 地代家賃調査書(甲15)
16 支払手数料調査書(甲16)
17 諸会費調査書(甲17)
18 雑費調査書(甲18)
19 賃借料調査書(甲19)
20 繰延資産償却費調査書
21 損害保険料調査書(甲21)
22 事務所経費調査書(甲22)
23 青色申告控除額調査書
24 雑収入調査書
25 その他の経費調査書(甲25)
26 旅費交通費調査書
27 接待交際費調査書
28 消耗品費調査書(甲28)
29 事務用品費調査書(甲29)
30 保証金償却費調査書
31 利息収入調査書
32 不動産収入調査書
33 不動産経費調査書
34 譲渡収入調査書
35 譲渡経費調査書
36 譲渡所得特別控除額調査書
37 給付補てん備金調査書
38 源泉税調査書
一 渋谷税務署長作成の証明書
一 押収してある
1 五七年分の
(一) 所得税の確定申告書一袋(昭和六三年押第一三六号の1)
(二) 所得税青色申告決算書一袋(同押号の6)
2 五八年分の
(一) 所得税の確定申告書一袋(同押号の2)
(二) 所得税青色申告決算書(一般用)一袋(同押号の3)
(三) 右同(不動産所得用)一袋(同押号の4)
判示第二の事実について
一 収税官吏作成の次の各調査書
1 売上高調査書
2 現場払経費調査書(甲41)
3 仕入金額調査書(甲42)
4 期末棚卸高調査書(甲43)
5 給料調査書
6 福利厚生費調査書(甲45)
7 交際接待費調査書
8 事務用品費調査書(甲47)
9 備品費調査書
10 新聞図書費調査書
11 消耗品費調査書(甲50)
12 修繕費調査書(甲51)
13 水道光熱費調査書(甲52)
14 通信費調査書(甲53)
15 租税公課調査書(甲54)
16 諸会費調査書(甲55)
17 広告宣伝費調査書(甲56)
18 地代家賃調査書(甲57)
19 雑費調査書(甲58)
20 賃借料調査書(甲59)
21 支払利息調査書
22 支払手数料調査書(甲61)
23 損金算入延滞金等調査書
24 損害保険料調査書(甲63)
25 事務所経費調査書(甲64)
26 その他の経費調査書(甲65)
一 淀橋税務署長作成の証明書
一 押収してある法人税確定申告書(五八年一〇月期)一袋(同押号の5)
(法令の適用)
一 罰条
1 被告人
判示第一の一及び二の各所為につき、所得税法二三八条一、二項、判示第二の所為につき、法人税法一五九条一項
2 被告会社
判示第二の事実につき、法人税法一六四条一項、一五九条一、二項
二 刑種の選択
被告人の判示第一の一及び二の各罪についていずれも懲役刑と罰金刑を併科、判示第二の罪について懲役刑を選択
三 併合罪の処理(被告人につき)
刑法四五条前段、懲役刑につき四七条本文、一〇条(犯情の最も重い判示第一の一の刑に加重)、罰金刑につき同法四八条二項
四 労役場留置
刑法一八条
五 刑の執行猶予(懲役刑につき)
刑法二五条一項
(量刑の事情)
本件は、飲食店経営を目的とする被告会社の代表者であり、かつ、個人でも飲食店を経営していた被告人が、売上の一部を除外するなどして所得を秘匿したうえ、虚偽過少の申告をして、二年分の所得税合計八八五八万円及び被告会社の昭和五八年一〇月期の法人税一四三八万円余をそれぞれほ脱した事案であって、その額が高額である点及びほ脱率が所得税については二年分の平均で約九四・三パーセント、法人税のそれは約九九・七パーセントと極めて高率である点で犯情悪質である。被告人は、長野県内の中学校を卒業後、大工、スペイン料理店従業員、飲食店店長などとして稼働した後、昭和五五年一一月ころ、新宿区歌舞伎町においてパブクラブ「ペルシャ」を個人で経営するようになったのを皮切りに、同五八年一二月現在では個人で四店舗、被告会社で三店舗の飲食店を経営していたものである。被告人は右のように事業を拡張するにあたり、事業拡大の資金を捻出し、また、経営基盤の確立をはかるべく本件犯行に及んだものであるところ、事業者の多くは、適正な税金を支払ったうえで事業の安定及び拡大に努力しているところであって、動機において特に酌むべき点は認められない。ほ脱の具体的方法をみると、売上を除外し、それに対応して仕入や経費も少額にしたうえ、税務調査に備えて公表分に見合うように帳簿及び関係書類を完備していたものであり、また、所得を分散して税率を下げるために個人経営の店舗の一部について従業員の名で所得申告させるなどし、更に、除外した売上金は仮名の預金口座に隠匿するなどしていたものであって、その手口は計画的かつ巧妙であり、犯情は悪質である。加えて、本件が査察事件となった後も、同和関係者に依頼して暴力団の幹部を共同経営者に仕立てて真相の究明を妨害したことなどをも併せ考えると、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
しかしながら他方、被告人は本件を反省し、更正処分に従うとともに、更に修正申告をしたうえ、所得税につき七二〇〇万円余、法人税につき二三〇〇万円を各納付し、その余の未納分についても分割で支払う旨述べていること、被告人の行為の結果とはいえ、同和関係者らに対し、前記工作に関連して支出した金員のうち、約五六〇〇万円が支出したままとなっていること、売上除外を防止するため、売上金の管理には被告人が関与しないような方法に経理体制を改善したこと、本件当時個人経営だった店舗を法人の経営としたこと、被告人は、風俗営業等取締法違反の罪などで罰金刑に処せられたことがあるのみで、禁錮刑以上の言渡を受けたことがないこと、中学を卒業後、裸一貫から人一倍真面目に働いて事業を興すに至ったものであることなど被告人に斟酌すべき事情も認められるので、今回は懲役刑についてはその執行を猶予するのが相当であると判断し、主文のとおり刑の量定をした。
(求刑 被告人につき懲役一年及び罰金三〇〇〇万円、被告会社につき罰金五〇〇万円)
よって、主文のとおり判決する。
(裁判官 鈴木浩美)
別紙1の(1) 修正損益計算書
酒井和夫
No.1
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙1の(2) 所得金額総括表
酒井和夫
自 昭和57年1月1日
至 昭和57年12月31日
<省略>
別紙2の(1) 修正損益計算書
酒井和夫
No.1
自 昭和58年1月1日
至 昭和58年12月31日
<省略>
別紙2の(2) 所得金額総括表
酒井和夫
自 昭和58年1月1日
至 昭和58年12月31日
<省略>
別紙3 脱税額計算書
(1)
昭和57年分
<省略>
脱税額計算書
(2)
昭和58年分
<省略>
別紙4 修正損益計算書
有限会社 ピーエスピーレジャー産業
No.1
自 昭和57年11月19日
至 昭和58年10月31日
<省略>
別紙5 脱税額計算書
会社名 有限会社 ピーエスピーレジャー産業
自 昭和57年11月19日
至 昭和58年10月31日
<省略>